この施設は2011年につくられ、乳児院「しらかばベビーホーム」と併設してつくられたいわば乳児院・児童養護の一体型施設として、全国的にも珍しい施設です。
以前から、2歳まで預けられた児童は、乳児院を卒業すると法律上それまで親しんだ保育者と離れ、児童養護施設へと移らなければならないことが問題になっていました。
以前、別の施設の関係者から聞いたところによると、施設を離れると何ヶ月も児童が泣いて悲しむそうです。
やっと築きあげた他者との信頼関係が2歳時の離別でまた反故になってしまうことが、大きな制度上の問題点といえます。
その制度は従前通り変わりませんが、この横須賀の一体型の施設であれば、一階が乳児院、2階〜3階が養護施設のため、同じ施設の中に職員がいるということが児童を安心させ、移行がスムーズに行われているということでした。
新しい施設ですので、看護室や、母子が一時的に生活する部屋なども用意されていました。
ただ、(これは私が今まで見た施設はどこもそうなのですが)、各部屋は個室になっているものの数名のグループで生活しています。そのため、一人部屋で静かに勉強するスペースがありません。
横須賀の施設では、大体宿題などは食卓で皆でやっているということでした。
たしかに、集団で様々な事情の(中には深く傷ついた子どももいる中で)子どもたちが生活をするということは、私たちの想像を越える日々の大変さがあると思います。
(壁に貼り出された日課表)
たとえば、施設では入浴時に大人は職員ですから、衣服を脱ぎません。そのため、子どもが一時帰宅した際、大人が服を脱ぐのを見て、パニックになってしまう、といったこともあるということでした。
インフルエンザやノロウィルスが流行すれば、それこそ職員の方は寝る間もないくらい看護に追われます。
子ども達の心のケアや生活していくだけでも、現状では手一杯であり、その上学習指導まで手が回らないということは想像に難くありません。
児童養護施設の実態を書いた本には、「学習意欲のない子どもへの学習指導はお手上げである。馬を川に連れていくことはできるが、水を呑むのは馬の意欲の有無である」とあります。
参考文献:菅原哲男著「誰がこの子を受けとめるのか」2003年,言叢社
確かに、大人が頭ごなしに勉強しろ、と言っても意欲がない以上効果はありません。
ですが、子ども達の自立のためには、進学のための学習指導が欠かせないものと考えます。
施設で働く職員の人からこんな話を聞いたことがあります。
「18歳で施設を出ていかなければならない。それまで施設で生活していた子がいきなり社会に放り出されて、急な自立は難しい。18歳で出て行った女児がすぐに子どもができてしまい、その子どもをまた施設に預けている、といった悲しい負の連鎖が起きてしまうことがある。」
18歳で施設を出るのではなく、せめて成人するまでは施設にいられるように、法改正が必要なのは言うまでもありませんが、横須賀の施設では、大学まで進学する子どもは1割程度ということで、施設の子どもたちの進学率を上げることが、子どもたちが将来、好きな仕事に就ける可能性が広がるために、重要なことだと考えます。
なぜ勉強が必要なのか?
それは、将来好きな職業に就くためであると私は思います。
例えば、医師になるためには生物学や科学の勉強が必要でしょうし、職種によって必要になってくる勉強は違ってくると思いますが、国数理社英などの勉強はその基礎的なものとなると思います。
世の中には多種多様な職業があることを、まず子どもたちに教え、将来何の職業に就きたいのか、そのためには今何を勉強する必要があるのか。
親が無職であったりした場合、その子どもには適切なロールモデルが存在しないことになります。
そのために、将来就きたい仕事のイメージが持ちにくく、それこそが負の連鎖を生み出してしまう要因であるといえます。
そのために、そこをまず丁寧に時間をかけて話し合うことが重要です。
子どもが納得をし、目標が見いだせれば、あとはボールが坂を転がるように、学習意欲は自然と沸いてくるのではないでしょうか。
先述の菅原さんの著書には、「確かに児童養護施設に学習意欲の欠乏した児童は多いが、本来的には意欲を欠落させた子どもなどいないのではないか」などと書いてあります。
私も全く同感です。
すべての子どもたちは、無限の可能性を秘めていると思いますし、努力次第ではどんなことでもやればできるのだと思います。
施設の子どもたちの学習意欲を高め、大学までの進学率を高めるにはどうしたらいいのか、今後もこの課題に取り組んでいきたいと思います。
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